歌は世につれ世は歌につれ、というわけではないですが毎年年の瀬のオーラス、有馬記念を迎えるとかしましい町雀たちが予想し出すのがこの世相馬券。
大抵がその年にあった重大事件からエニグマの暗号変換並みに複雑な解釈を経て、その年の勝ち馬と2着馬、もしくは3着馬のいわゆる馬券の対象を炙りだそうという魂胆なんだが、これがまあ見事にあたらない。
あまりに当たらないのでお笑い馬券とかしており、東京スポーツなんかは普段は競馬の予想もしないデーブ・スペクターさん(敢えてここではさんづけ)なんかが、毎年少ない字数制限をかいくぐって無理な世相馬券の予想を繰り広げている。
ところが、である。この馬券一度だけぴたりと当たったことがある。
それはあの911、アメリカというより全世界を揺るがした同時多発テロの年である。
この年の有馬記念は前年から続いているテイエムオペラオーとメイショウドトウのGⅠマッチレース最終章といのが戦前のあらかたの予想だった。
確かに有馬前の2走、天皇賞(秋)ではアグネスデジタル、JCではジャングルポケットにテイエムオペラオーもメイショウドトウもそろって土はつけられていたけど、着順ではほぼ勝ち馬以外には負けていなかったしなによりその2頭がそろって有馬には出走していなかった。
他に対抗馬といえるような馬も特に見当たらず、焦点はこのレースで引退を決めていたオペラオーが前人未到のGⅠ8勝目を決めるか、それともこの年の宝塚で悲願のGⅠ勝ちを収めていたドトウが再び最後の一矢を報いるか、この2点というか1点だけが焦点だった。
ところがである、蓋を開けてみればびっくりのドトウ・オペラオーがまさかの4・5着。
勝ったのはその年の菊花賞を勝ったばかりの新鋭マンハッタンカフェ。
2・3着に逃げ粘ったアメリカンボスとトゥザヴィクトリーというとんでもない組み合わせになったのである。
で、勝ち馬が確定した瞬間に多くの人の頭をよぎったのが世相馬券。
911のテロが起こった中心地、マンハッタン。
テロを受けた国アメリカの報復を宣言したボス。
そしてテロの結果を受けて勝利宣言、ヴィクトリーを叫ぶアルカイダ。
と出来過ぎなぐらいこの年の世相とリンクしていたのである。
この3すくみというか組み合わせが掲示板に上がって確定した時の衝撃はいまでも忘れられない。
幸いにしてこの時以降いまだにこの類いの世相馬券は現れていないが、出来ればもう2度とこういう形での馬券への反映はあってほしくない。
有馬記念はやっぱり当てれば幸せの一年、外しても来年があるさ、ぐらいのお祭り感で楽しめるのがいい。